MENU
HOME  >  一覧  >  【江戸川病院】アートの先にある医療機関の未来~人類の叡智の総力戦でがんと闘う最前線~
2022.12.12

【江戸川病院】アートの先にある医療機関の未来~人類の叡智の総力戦でがんと闘う最前線~

〜人類の叡智で、がんとの総力戦に挑む江戸川病院〜

次世代放射線治療と言われているBNCTやロボット手術のダ・ヴィンチなど先進医療機器を次々に導入する江戸川病院。一方でアートの力による医療現場の空間デザインに着目し、日々様々なアートを患者さんに提供する病院でもある。そのような最先端技術と芸術性・独創性が融合する異彩な病院、そこで腫瘍血液内科部長兼がん免疫治療センター長を務める明星智洋先生とは実際どんな人物なのか。「がん撲滅のために医師になった」と明星先生はそう力説します。

先生が医師を目指すきっかけとなった出来事、1人の医師でありリーダーとしての在り方、これから目指すべき医療まで、江戸川病院が今の地位を確立し、さらなる発展を進める根幹に迫ります。(全2回の後編)

祖母の死。その原因となったがんとの闘い

江戸川病院は下町と呼ばれるエリアにあり、周辺住人や訪れた患者へは『身近な病院』という印象を与えながら、実際は専門病院と遜色のない知識と技術をもつ。『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)の著者でもある明星先生は、日本でも有数のがん診療の権威。世界中から江戸川病院に患者がやってくるほど。医療という人間の命と向き合う医師にとってどの診療分野であっても求められる知識と技術、そして責任は非常に高い。その中でがんは日本国内の死亡総数の27.6%を占めており、1981年以降、39年間連続で死因のトップとなっている。日本人をもっとも苦しめるがんという疾病、その分野を選び、現在江戸川病院にて腫瘍血液内科部長兼がん免疫治療センター長を務める、明星先生が“がん撲滅”を掲げた理由とはなんだったのか。

「高校2年生の時、祖母が膵臓がんで亡くなった。 手術で開腹したものの、そのまま何もできずに閉じたのだと聞いた。その無力さにショックを受け、祖母を殺したがんを撲滅したい。そう思い医師を目指した」その後、志望校を医学部に変更し、猛烈に勉強し国立熊本大学医学部へ入学。医師となってからは、虎の門病院、癌研有明病院へ進み、ひたすらガンを撲滅するための医療を研究し実践してきたとの事。江戸川病院にやってきたのは、医師として脂が乗った9年目であった。

明星先生はもっとも難関資格と言われ全国に1,600人ほどしか保有者のいない、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医の資格を最年少で取得している。症例報告、筆記試験、面接試験という高いハードルがありその取得は目指して取れるものではない、努力の賜物であり、がん治療の専門性を裏付ける証となる。がん撲滅に対する強い意志、資格、そしてそれらを裏付ける技術と経験を持つ医師が、次へのステージを考えた時、より大きな病院からのオファーもあった。

技術レベルの高い医師はどの病院も欲しいと願う。がん治療は当然日本だけでなく世界でも注目される領域であり技術の高さは病院の知名度の更なる向上にも繋がる。しかしながら、数々のオファーがある中で明星先生は江戸川病院を選んだ。面接をした当院前院長は、明星先生のがん撲滅を目指す治療に関して「どんどんやってほしい」と言ってくれたとの事。祖母の死を目の前にし、強くがん撲滅を決めた医師の前では、病院の肩書や経歴ではなく、その目的が本当に達成できるのか?自身の医者生命をかけてがん撲滅にどこまで貢献できるのか?それを問うた際に、明星先生が目指す医療はここでできると信じ、江戸川病院への入職を決めた。

入職後から現在に至るまで、その言葉通り、江戸川病院にさまざまな先端医療機器を導入し、がん撲滅のためのあらゆる手法を試みている。「最近ではゲノム解析により最適な飲み薬を選択するがん治療(プレシジョンメディスン)も進んできている。それらの情報を確実に掴み、最後まで諦めずに患者さんの命を救う。これは自身もがんで亡くなった故前院長との約束でもある」。

1人の医師に留まらない、組織のリーダーとしての役割

1人の医師としての経験、知見、技術力は前述の通りだが、江戸川病院という地域に根付きながら、最先端の医療を導入し続ける為には、チームとして取り組む必要がある。当然明星先生自身で全ての患者を治療する事は困難であり、その意思と技術を引き継ぎ限りなく多くの患者へ治療を提供するには、組織のリーダーとしての能力も問われるのではないだろうか。

「がんに限らず、病気の患者さんやご家族は大きな不安を抱えている。そんな人たちに対して、少しでも気持ちが楽になるような、私と一緒にいる間だけでも明るい幸せな気分を味わえるようにいてもらいたい。そのためには、まず自分に余裕がないとダメ。疲弊してイライラしている医師には、患者さんは治療してほしくない。患者さんたちにとってのベストを考えた時、医師の働き方や病院としての在り方も、変えた方が良いならば積極的に変革に取り組んでいる」

現在も、自身の裁量でできるさまざまな医師の働き方に取り組んでいる。「基本は来るもの拒まず。江戸川病院で働きたいと思ってくれる人なら、どんな人とでも一緒に働きたいと思っている」と語る。医療従事者の不足が問題視される昨今でも、江戸川病院については人材不足の課題とは無縁だ。「すべてを受け入れ、スタッフが自分の力を発揮できるようなサポートをしている」と語る明星先生。経営者のお手本のような考え方だが、それを言葉だけでなく実現できている経営者は実際どれほどいるのだろうか。

病院とはいえ、組織運営は一般企業と同じであり、リーダー次第でチームの雰囲気からスタッフの満足度、離職率まで大きく変わる。その中で現在、江戸川病院には、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医の資格保有者が4人も揃っているのは、この病院、そしてそのリーダーである明星先生の魅力とそれを支える組織作りの賜物である事は言うまでもない。

医療機関と企業のコラボ、両者の壁を壊し見えてくる世界とは

明星先生は、腫瘍血液内科部長兼がん免疫治療センター長という肩書に加え、 “ハイパーメディカルクリエイター”の肩書を持つ。これは民間で行われる研究を医療に生かすための活動であり、企業と医療機関のコラボレーションを積極的に推進する為のもの。医療機関と民間企業の間には見えない壁が実施には存在する。医療は、医療従事者のみに干渉を許される聖地であり、そこに介入を許可される企業はごくわずかである。日本の高度医療を本気で応援したいと信じ取り組む企業のみが、許される医療現場への介入、その見極めと推進を明星先生は行っている。

実際に、江戸川病院では『笑顔アプリ』の導入実績もある。笑顔アプリとは、資生堂により蓄積された「顔・表情の印象研究」「笑顔研究」をベースに、「笑顔講座」と組み合わせた教育プログラムであり、コミュニケーション力向上を目的とした人材教育の場面で活用されている。他にも、寝たきりの患者さんが家族と会話できたり、外出を楽しむことができるOriHimeという分身ロボットも医療機関では最初に導入した。企業にとって医療現場で実際に導入しそのデータを収集する事は、医療技術の前進には不可欠。その点でも江戸川病院の挑戦は今後の医療テクノロジーの発展を確実に後押ししている。

医療とテクノロジーの組み合わせに貢献する明星先生が、これから目指す医療とはどんなものなのか。「今、注目しているのはメタバース。病気で苦しむ人たちは世界中のあらゆる場所にいる。お金のある人は、海を渡ってこの病院にやってくることもできるが、そうではない人たちも多い。そのような人たちが、自宅に居ながらにして診療を受けられるようになれば、沢山の人たちの命を救うことができるかもしれない。さらに、手術をせずに薬物での治療が確立していけば、その可能性がさらに高くなる」
言語や地理の壁さえなくなり、世界中の人たちが自分で病院や医師を選んで診察を受けられる時代になる事は、メタバースの普及スピードを考えると可能性は高いのではないだろうか。

企業の力を医療につなぐため、スタッフや患者さんたちの環境をよくするため、そして何より、自分が誓ったがんという敵を撲滅するため。江戸川病院はこれからも医療業界の先端事例を次々に発展させていくだろう。

江戸川病院:導入アートご紹介

病院の外から既に江戸川病院の患者さんを迎え入れる為の配慮が様々感じ取れる

天井まで届く緑と降り注ぐ太陽光。
病院での待ち時間を苦痛と感じる患者さんが多い中、この病院の待合室は、その苦痛さを一切感じさせない空間が創られている。