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2023.02.17

【あおいクリニック】医療に対する絵画という選択肢。その可能性とは。

〜社会課題の解決に人生をかけて戦うあおいCL〜

静岡繁華街の一角に佇むメンタルクリニック。ここでは精神疾患を抱えた患者の為に最大限に配慮された空間で治療を受けられるだけでなく、最先端のうつ病治療を享受できる。最新医療機器である「光トポグラフィー」によるアプローチなど、常に最善の医療を提供する為に、エビデンスを重視した新たな取り組みの導入を続けられており、さまざまな選択肢の中から患者に合った選択を行う事ができる。

空間作りという観点で、アート市場に対する理解も卓越している。海外と日本ではそもそもアートに対する価値観が歴史的、文化的観点からも異なる。欧州では医療現場にアートを取り入れるケースが一般化されている中、日本での普及はまだ遅れている。文部科学省によるアンケート調査でも、アートの導入は認知度の低さから理想と現実にギャップを感じるという回答が最も多い。(1) このような現状の中で、既にアートの力を理解し体系的に導入している医療機関は先進的といえるではないか。あおいクリニックの理事長である寺田浩先生はアートセラピーの効果や、将来性についてどのようにお考えなのか。アートセラピーの効果や、今後の日本での普及について寺田先生と検討した。(全2回の後編)

当時の最新医療機器「光トポグラフィー」を導入。

当時の最新医療機器「光トポグラフィー」導入に至った経緯から、寺田先生の医療に取り組む姿勢や人柄がうかがえる。光トポグラフィー導入については、「最先端の技術で取り入れられることであれば、積極的にやることが本当に必要です。光トポグラフィーはうつ病の鑑別診断では当時先端的。今ではさらに、成人のADHDの診断もできるように開発されています。患者のためにも、常に先端的なことができるオプションを作るように心がけています。治療の手段を数多く持っておくのは、非常に大事です。」

光トポグラフィーは脳血流の変化パターンから、うつ病を判定する検査機器。症状の度合いを、客観的に表現することが難しいとされてきたうつ病。光トポグラフィー検査は、うつ病についての客観的な数値測定を可能にした。(1) 数値やグラフなどにより正確な検査を行う事で、有効な治療法を見つけられる可能性も高まる。あおいクリニックでも、光トポグラフィー検査機器を導入して客観的な指標を用いて、診断の正確性を高めている。(2)

絵画と癒し。感情面に与える影響とは。

展示会やギャラリーに行かれた事がある人は想像し易いかと思うが、一般的な展示会には、壁に絵が飾られており、そこには作者の解説または歴史的な背景が添えられている。実際に作者の考えや、絵画の歴史的背景を知るという事にはどのような意味があるのか。絵画にはそもそも心理的にポジティブな変更与えられる可能性が存在するのか。「効果はあると思いますよ。絵が家にも飾られたりしているのは、住人にとって癒しの効果があるからだと思います。また別荘に絵が飾られているケースもありますが、これも気持ちが落ち付くからだと思います。人々は、癒しを知らず知らずのうちに求めているんでしょうね。家で落ち着きたいから、絵が欲しくなるのではないでしょうか。」

それは、あおいクリニックの院内に施されている木目調のデザインにも現れているようだ。自然の中で、人々がリラックスできるようにとの寺田先生の配慮が反映されている。「とくにクリニックの周辺はビルが多く、自然を感じる木目調を患者が見ると心が落ち着くと思うのです。自然というのも人々に癒しを与えるためには、大切ですよね。」。確かに、あおいクリニックは静岡市の中でも繁華街と呼ばれる位置にあり、そこから少し歩けばオフィス街や飲み屋街がある。その中で、一歩このクリニックに足を踏み入れた際の、外界とのギャップは驚きだ。絵画や自然を感じさせる内装など、空間全体の作りこみは一種のアートであり、そこを突き詰めていく事が最終的には究極の癒しの空間になることだろう。

元々の建物の骨格を生かし、高い天井と木目の柱を残し、オフィス街にありながら別世界のような雰囲気を演出。

アートに制限はない。広がり続ける概念とそれを形にする取り組み。

『アート』というと絵画をイメージする人は多いのではないだろうか。一方で私たちが語る『アート』とは絵画に閉じず、その瞬間医療現場にいる全ての人達にポジティブな影響を与える全てのモノと定義している。その為、私たちの考えるアートは、絵画や音楽だけには一切閉じない。たとえば、静岡では大道芸が盛んで、大道芸フェスティバルが有名。「今、大道芸フェスティバルはコロナ禍で中止になってますね。とても残念で、喪失感があります。やはりパフォーマンスも一種のアートであり、なくなると困りますよね。パフォーマンスを楽しみにしていた人もたくさんいたと思います。」絵画や音楽だけではなく、いろいろな形で人々が楽しめる環境を整えることは大切。医療にもアートを持ち込んだ方が患者は楽しめ、心の健康にもよい影響があるのではないか。

「パッチアダムスという映画にもあるように、医療にアートを持ち込んだ事例もあるんです。映画の中では、パフォーマンスを見た患者が喜ぶ姿が出てきます。これも医療に、アートを持ち込んだという例でしょうね。」パッチアダムスは、心のケアをする道化師を務めた実在の人物を描いた映画。病院を中心に活動する道化師は、ホスピタルクラウンとも呼ばれる。(2) 映画のもとになっている人物は、パッチ・アダムスの名前で現実でも活動しており、本名はハンター・ドーティ・アダムスという方。現在でも世界中で活動を続けており、日本でも講演をしたことが何度もある。(3) 新しい取り組みと捉えられがちな「医療現場へのアート導入」だが、本質的な部分については既に昔からと入れられている。それを現代の最先端の情報を踏まえて、医療現場に落とし込む事が、今求められているのではないだろうか。

日本での音楽療法の将来性とは。

音楽は患者の精神療法として有効な手段だが、日本ではまだまだ普及が遅れている。「音楽療法は、まさにこれから必要ですよね。病院やクリニックは、ただでさえ緊張してしまうから、いろいろな手段で患者をリラックスさせることはとても大事なのです。」寺田先生も、演奏家をクリニックに呼ぶなどして、アートは積極的に取り入れていきたいとの意気込みを語られた。

「合唱なども、みんなで一緒に歌えるからいいですね。アートとは少し違うのかもしれないですが、カラオケなんかも、患者に楽しんでもらう手段としては有効だと思いますよ。」突然アートを導入する事は、その発想がまったくない医療機関にとってはチャレンジングな事かもしれない。ただ、アートとは決して敷居が高い物ではなく、ほんの少しのクリエイティブな取り組みから始めるだけでも、意味があるのではないだろうか。

アートセラピーが普及するために解決すべき課題とは。

寺田先生はコロナ前の海外渡航の際に、実際に海外の最先端の病院を視察されている。そこでは、一言でいうと「カラフルな救急病院」を目の当たりにして驚きを覚えた。病院が不安を与える空間になってしまっている事は現実としてあるが、海外にはまったく病院感がないクリニックが多数存在している。「日本では、アートに高価なイメージが強いように思います。だからアートの導入に費用がかかるからと、なかなか踏み出せない病院も多いのかもしれません。すべてのアートが高価なわけではないのに、身近なものとして認知されていないのは残念ですね。」

アートに対する日本人の考え方が、クリニックにおける音楽や絵画の普及を阻む要因になっているのかもしれない。そこで寺田先生はアートセラピーの普及のためには、医師とアートをつなぐサービスが必要と考えている。「音楽をクリニックに取り入れようとしても、生の演奏は音楽会場やコンサートで聴くものと思われていて、まさか演奏家に病院まで来てもらうことまでは考えが及ばないのかもしれません。絵画も同じく、高価でなくても、いい絵を書いてくれる人はいっぱいいると思うんですよ。だから、クリニックとアートとのコネクションができれば、アートセラピーの分野ももっと普及するのかもしれませんね。」精神医療の現場で働く寺田先生は、日本でもアートセラピーが広がるためにも、アートと医師をつなげるサービスの重要性を強く感じている。日本の医療現場が、海外のレベルに行きつく為には、まず一歩を踏み出す必要がある。日本国内でも、その一歩を走り始めた医療機関が今後、大きく前進できるのではないだろうか。

引用(参考)
(1)調査報告書「アートセラピーの現状と課題-アンケートとインタヴューから」|文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業
(2)NPO法人日本ホスピタル・クラウン協会
(3)6月開催『パッチ・アダムス氏 招聘イベント』イベント開催|Studio Gift Hands.