【ココロまち診療所】地域と繋がる医療の新しいコミュニティデザイン〜地域の人と自然につながることで見えてくるもの〜
〜地域の人と自然につながることで見えてくるもの〜
開院から4年経ちココロまち診療所は、地域の人が多く訪れる場所となっている。定期的に開催されるアロマのワークショップ、芋煮会や流しそうめん、タケノコ掘りなどのほか、野菜販売を目当てにぶらりと訪れる人、子どもたちが何気なく遊びにやってくることもある。もちろん診療目的で訪れる患者もいるが、地域の人と診療所の関わりは通常のそれとは全く別のものだ。診療所のブログには、様々なイベントで笑顔を見せる地域の人々や、こたつの中であったまる片岡院長が「院長」と呼ぶ猫の様子など、そこには開院当初から目指していた診療所らしくない「行くだけで元気になれる場所」「地域の健康な人が自然と足を運んでくれる場所」を見ることができる。
理想の場所を作るには「医療機関らしくしないことかな」と語っていた片岡院長。しかし、医療機関としても堅実に進化を続けている。9月からは医師がひとり増え新体制での新たなスタートを切った。ブログには毎月のように過去最高の新規患者数の報告が掲載されている。
ココロまち診療所は医療とは違う場所で自然と繋がることで、気軽に体調や病気の相談に訪れることができる理想の施設、新しいカタチの医療機関となりつつある。診療所は4年間でどのように地域に馴染んできたのか、今後の展望も含め片岡院長に話を聞いた。
4年間の活動でまちのハブとなる「ココロまち診療所」
「医療×農業」で始まったココロまち診療所は、開院当初から農業を中心として、季節のイベントや庭づくりなど、医療活動以外の繋がりに多くの力を注いできた。季節ごとに様々なイベントなどが行われているが、それらの多くが診療所主導ではなく地域の人達との相互関係で成り立っており、常にスタッフ以外の地域の人たちが自然と診療所へ足を運ぶ環境がつくられている。
農業に関しては、地域の農家の方の力を借り、月に一度診療所スタッフと共同で農作業をする機会などを設け、協力し合いながら畑を育てている。庭は近くの花屋が届けてくれる花たちで賑わい、芋煮会は地域の人がメインとなり運営、スタッフが手伝うかたちで開催されている。こうしたイベントは家族の方たちとスタッフの医療以外での親睦の場ともなっている。畑でできた野菜は定期的に診療所入口で販売され、診察に来た患者のほかにも野菜が目的で訪れる人もいる。無料で配られる花の苗、芋煮会などのイベントは関わる人の家族や友人など、地域の人たちが定期的に診療所を訪れる機会を作ることができている。地域の多くの人が診療所へ訪れることで、他の人たちにも意識することなく自然に訪れやすい環境へと変わってきている。また、柵などの仕切りがない敷地。天気の良い日は開いたままになる窓や出入り口。日除けテントを利用した青空診療室など、診療所の開放的な作りも「立ち寄りやすさ」を手助けしている。こうした近寄りやすい数々の仕掛けのおかげで、ココロまち診療所では医療機関によくある通院への壁が極端に低く感じる。
昭和初期までは普通であった地域のハブとしての存在。「漠然と理想としていたカタチが、時間が経ちだんだん具現化してきた」。地域の圧倒的多数な健康な方達と自然につながれる場所としての形がしっかりと見えてきたのではないだろうか。
スタッフに持続性のある環境と働き方を
ココロまち診療所には看護師や管理栄養士、事務に用務員、そしてアロマセラピストなど医師の他にも医療に関わる様々な職種のスタッフが従事している。「地域の健康な人が自然と足を運んでくれる場所」は働くスタッフにとっても働きやすい場所になっている。
「『生き辛さを支える』のは患者だけではなくスタッフも同じ、自己犠牲に成り立つことが多い医療の現場をいかに働きやすくし、そして良い環境をどのように継続していくかを考えると、子育て世代が安心して働ける環境が大切」。
ココロまち診療所でのスタッフの働き方は様々だ。時短パートなどスタッフの生活スタイルに合わせた働き方ができるよう環境を整えている。また地域の人と自然と繋がれるための試みが、スタッフやその家族にとっても良い環境としての役割を果たしている。定期的に開催されるイベントや、協力いただいている地域農家との共同農作業など、自由に家族と参加できる機会も多く職場と家庭の距離も近くなる。
ここで働く人たちにとって自然に囲まれた環境も、生き辛さを解消してくれる大きな存在になっている。四季ごとに変わる色、空気が身近にあり、意識しなくても歩く距離が増えたり、日にあたる時間が増えたりと、気持ちと体の健康を支えてくれる。
若い世代に面白いと思ってもらえる教育を
「ココロまち診療所のような環境を維持継続して次の世代に繋げるには、若い世代に興味を持ってもらうことも大切な要素」。もともと教育には携わりたかったと、開院当初から見学、実習を積極的に受け入れている。面白いと思ってもらわないと次に続かない、学生は普段から勉強しているので研修の3日くらいは記憶に残ることをしてもらったほうが良いと、必須実技が「薪割り」など医療機関の実習としては通常ではあり得ないような内容になっている。
2021年からは母校である横浜市立大学医学部の学生たちへ授業する機会もでき、ますます教育へ携わる機会が増えた。テーマは「地域に根づく地域医療」だが「出てくるのは野菜の話ばかり」とここでも斬新さを見せる。診療所のホームページには医療機関のものとは思えない、楽しそうな研修風景の写真が並ぶ。
先日、岐阜県から夜行バスに乗り見学に訪れた看護学生がいるなど、こうした取り組みは若い世代の興味を引き、ココロまち診療所を訪れる学生が増えている。普段の授業では教わることの少ない、患者との関わり方を知り、在宅医療に興味を持つ若い世代が増えることが期待できる。
新たなスタッフを迎え次のステップへ向かう診療所
こころまち診療所では、2022年4月に古民家の隣に今まで建築中であった建物が完成し、地域の人たちの運動や健康指導の場、コミュニケーションスペースとして新たな繋がりの場が広がった。そして同9月には1名の医師を迎え新たな体制でスタートを切った。「医師が増えると違う職種も増えてコミュニティとしても違う形になるだろう」と片岡院長の言葉に今後のさらなる進化が期待できる。
開院から4年経ち、今では地域の方から頂いたものや、診療所に訪れた方の縁で生まれた繋がりで様々な取り組みが形成されている。大量に頂いたマリーゴルドを植えた場所をさらに公園にしようといった計画が進み出したり、新任の医師が持参したテントが新たな発熱外来の診療室になったりと、関わった人が空間をつくり、さらに次の繋がりを作っていく。
まさに「生き辛さを感じる人を支える」ための場所として成長し続けている。昔はいろいろなカタチで普通に存在したコミュニティの中心となる施設。「医療×農業」プラスαで現代のハブとしてコミュニティがどのようにデザインされ、今後どのように進化を遂げるのか楽しみである。
最後に片岡院長に「次は何が欲しいですか?」と聞くと真っ先に「お風呂が欲しい」と返ってきた。日本人にとって、コミュニケーションスペースとして最高の場所であるお風呂。次に訪れた時には、お風呂を楽しむ近隣の方たちがみられるのかもしれない。